勇者という仕事の裏側【御ナラティヴ】
この世界における勇者は、ただ魔物を倒す英雄ではありません。勇者局や労働局によって管理される、危険な任務を引き受ける専門職でもあります。正式な依頼であれば、危険度、報酬、保険、装備、撤退条件などが確認されます。しかし、世の中には制度の外側にある仕事も存在します。それが「裏案件」です。
裏案件とは、勇者局や労働局の正式な保険審査を通していない、高危険・高報酬の任務です。未確認迷宮の調査、魔物の巣への潜入、政治的に表へ出せない任務、貴族や商会が密かに出す討伐依頼などが該当します。報酬は高い一方で、保険適用外となることも多く、受ける者には大きな覚悟が求められます。
勇者局は、こうした裏案件を全面的に認めているわけではありません。しかし、すべてを完全に取り締まることもできません。表の制度では扱えない緊急事態や、危険すぎて保険会社が引き受けない任務も存在するからです。そのため、裏案件は黙認される場合があります。ただし、それは保護や推奨ではなく、制度の外に出ることの重さを示すものです。
裏案件の中でも、特に危険視されているのが要人暗殺に関わる依頼です。私怨、政争、商売上の対立、財産争いなどを理由に暗殺が横行すれば、社会秩序は簡単に崩れます。そのため、麟・カーネーションたちは、こうした依頼を最も危険な裏案件として監視しています。
危険な依頼は、ただ消せばよいわけではありません。消してしまえば、依頼者や仲介者はさらに深い闇へ潜り、勇者局や労働局の目が届かない場所で動く可能性があります。そのため、あえて監視できる場所に残し、依頼者、仲介者、受注者、実行経路を把握したうえで摘発することがあります。
また、この世界では勇者の戦死は単なる美談では終わりません。勇者が任務中に戦死した場合、それは重大な契約事故の可能性がある事案として扱われます。任務内容、危険度判定、報酬、保険加入状況、装備、撤退条件、救援体制、現地情報の正確性などが調査されます。
この考え方の背景には、約2000年前の反省があります。オルカートがラスボスとして君臨していた時代、多くの勇者や勇者候補が、十分な情報も補給も補償もないまま戦場へ送られました。その結果、社会には「勇者を犬死させてはならない」という考え方が生まれました。
この世界では、勇者の死を「尊い犠牲だった」の一言で終わらせることは許されません。なぜなら、それを許せば、また次の勇者が同じように死ぬからです。勇者とは、華やかな英雄であると同時に、危険な任務を背負う存在でもあります。だからこそ、この世界では勇者の命、契約、保険、責任が重く扱われています。
